税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香
大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。
高齢化社会に伴い、空き家問題が深刻化していると言われています。この問題を解消しようと、国は「空き家の発生を抑制するための特例措置」を実施しています。本来、相続した空き家を売却し利益が出ると、譲渡所得税を納める必要があります。しかし、一定の条件を満たしていれば「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」が適用でき、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。これが通称「空き家特例」と呼ばれるものです。この記事では「空き家特例」について適用要件や注意点をわかりやすく解説していきます。
目次
空き家特例の適用を受けることで、空き家状態の実家を売却する際に大きな節税効果が期待できます。ですが、空き家特例の適用要件は多く、また全てを満たす必要があります。この要件について以下で解説していきます。
まず「空き家特例」というように、空き家つまり「家」が対象となります。そのためマンションは対象外です。また、二世帯住宅は「家」ですが、区分所有している場合には対象外となります。区分所有か否かにつきましては法務局で取得できる登記事項証明書で確認することができます。
一番明確な基準として「家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたもの」ということが挙げられます。これは昭和56年5月31日までは旧耐震基準で建築されており、耐震基準が旧か新かで線引きが行われています。建築日につきましても、登記事項証明書で確認することができます。
次に売却時期として、「相続開始から3年が経過する日の属する年の12月31日」までに不動産を売却することが条件となります。この相続開始、というのは不動産の名義人が亡くなられた日のことです。例えば令和7年6月1日に亡くなられた場合、3年が経過する日は令和10年5月31日です。つまり令和10年12月31日まで、ということになります。ただ、この空き家特例自体が令和9年12月31日までの売却を対象としているため、この特例を使おうとする場合は令和9年12月31日までに売却することを目標としましょう。
被相続人が亡くなられた時点で、1人でその住宅に居住していたことも要件となります。家族との同居があった場合は、この特例を受けることはできません。また、亡くなられた後も売却まで空き家であることも条件となります。そのため、誰かに貸したり、自分が住んだりといった利用がある場合も対象外となってしまいます。なお、被相続人が老人ホーム等に入所していた場合ですが、一定の条件を満たすことで適用が認められるケースがあります。
次の要件として、空き家を取り壊して売却する、もしくは耐震改修工事を行う必要があります。こちらについて、自分(売り手)、もしくは買い手側のどちらが工事を行っても大丈夫ですが、翌年2月15日までに工事が完了していることが条件です。
まず取り壊して売った場合、重要となるのは空き家を取り壊す時期です。自分が取り壊してから相手に引き渡す場合は問題がないのですが、買い手が引き渡し後に取り壊す場合には注意が必要です。例えば1月に引き渡しの場合、翌年2月15日までは期間がありますが、12月に引き渡す場合は、翌年2月15日までの期間は2カ月程度とかなり短くなってしまいます。もし買い手側が取り壊しの時期を引き延ばしてしまったり、そもそも取り壊しをやめてしまったりということが起こると、空き家特例を受けることができなくなります。必ず取り壊しを行うこと、またその時期について明確にした契約を行うことが大切です。
次に改修工事を行う場合ですが、空き家特例を受けるためには一定の耐震基準を満たしている必要があります。買い手側が改修工事をする場合、単に綺麗にするだけではなく、地震に対する安全基準を満たすことが重要となってきます。そのため、改修工事を行った場合は確定申告時の提出書類が取り壊しの場合と比べ1点多く、「耐震基準適合証明書」または「建設住宅性能評価書の写し」が必要です。これは耐震基準を満たしている建物であると証明するためです。尚、取り壊しと同じく翌年2月15日までに工事を完了している必要がありますので、その点にもご注意ください。
適用要件は他にもあります。
・相続または遺贈により空き家を取得したこと
・売却価格が1億円以下であること
・売却先が特別な関係(親子や夫婦など)でないこと
・この特例を受けるのが初めてであること
・対象の空き家について、相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や収用等の場合の特別控除など、ほかの特例の適用を受けていないこと
このように空き家特例を受けるための適用要件は多く、また複雑となっています。
なお、国税庁が公開しているチェックシートで要件や、必要な書類の確認ができるので以下をご参考ください。
全ての要件を満たし、この特例を受ける際には確定申告が必要となります。この確定申告に必要な書類は以下の通りです。
相続した家屋が「相続時から売却するまで空き家であること」をその所在地の市町村役場が確認する書類です。こちらは主に市役所や区役所の窓口で取得可能ですが、この確認書を申請するにあたって必要な添付書類も多々あります。また申請から取得までにある程度の時間がかかるため、期間に余裕をもったスケジュールを組みましょう。
これは売却代金が1億円以下であることを確認するための書類です。
その他にも、被相続人が老人ホームに入居していた場合には要介護認定の書類、施設入所契約書なども必要です。このように必要な書類が多く、全てを揃えるには労力もかかるため、なるべく早めに準備しておくとよいでしょう。
また、特例を受ける際には注意するべきポイントがいくつかあります。適用要件を少しでも外れてしまったり、書類に漏れがあると控除を受けることができません。老人ホームに入居していたケースや、相続人が複数いるケースなどで条件や必要書類も変わってきます。そのため専門家に相談することも検討してみてください。
空き家特例の適用を受けるためには、確定申告が必要です。控除により税額が0円になる場合でも、申告をしなければ特例の適用を受けられないため、空き家を売却した翌年2月16日から3月15日までに必要書類を添えて、必ず確定申告を行いましょう。
家屋や土地の相続人が複数の場合、それぞれの相続人が空き家特例の適用を受けることができます。しかし、令和6年1月1日以降は空き家の相続人が3人以上の場合、各相続人の控除額が2,000万円までとなりますので、ご注意ください。
このように空き家特例には非常に多くの要件があり、また必要な書類も多いため事前に準備を進めておくことが大切です。空き家特例の適用を検討される際は税理士に相談することをおすすめします。税理士法人プラスカフェでは相続専門の税理士が一貫してサポートさせていただきますのでお気軽にご相談ください。
またYouTubeにて空き家特例の解説も行っております。ぜひご覧ください。
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プラスカフェ税理士YouTubeチャンネル 空き家特例【前半】
(※この記事は、令和7年6月24日現在の法令に基づいています。)