税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香
大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。
「二次相続」とは、一次相続の相続人が亡くなられた際に起こる相続のことです。例えば、ご家族内で父親が先に亡くなったときが「一次相続」、その後に母親が亡くなった際に起こる相続を「二次相続」といいます。実は、相続税は、この二次相続の方が一次相続よりも高くなることが多いと言われています。この記事では、二次相続ついて、一次相続との違いやその対策を解説していきます。
目次
一次相続と二次相続において、大きく変わるのは相続人です。一次相続における相続人は「残された配偶者と子ども」です。しかし、二次相続では「子どものみ」となります。したがって、配偶者の税額軽減が適用できず、基礎控除額も1人分減ってしまうため相続税の負担が重くなりがちです。
二次相続では相続税が高くなる傾向にある理由として、以下の3つがあります。
これらについて次に解説していきます。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人」で決まります。二次相続の法定相続人は、配偶者の分、一次相続のときよりも一人減るため、基礎控除額も600万円少なくなります。基礎控除を超えた分の遺産に対して相続税がかかるため、600万円分課税対象が増えることになります。更に、相続税の税率は累進課税ですので、課税対象が増えると税率も高くなってしまいます。
「配偶者の税額軽減」とは、遺産分割の際に、配偶者の相続分が1億6,000万円、又は法定相続分のどちらか多い分まで相続税がかからない制度です。一次相続ではこの制度を利用することができます。ですが、二次相続が発生した際には配偶者も亡くなっているので、この制度は利用不可となります。ですから、前の相続で相続した財産全額に対して、相続税がかかることになります。
小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅等の土地において、一定の要件を満たせば、評価額を減額できるという制度です。不動産が相続財産に含まれる際、この特例を適用することで大きな節税対策となります。配偶者であれば、この特例を無条件で受けることができます。しかし、子どもがこの特例を利用する場合は、適用要件がいくつかあるため小規模宅地等の特例が利用できない可能性があります。
小規模宅地等の特例については、詳しくは以下の国税庁HPを参照ください。
参考:国税庁「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
二次相続では、一次相続において配偶者が相続した財産の金額によって、相続税が変わってきます。一次相続の際は配偶者の税額軽減を受けることもでき、財産の多くを配偶者が相続する場合も多いです。ですがそうした場合、二次相続の際にその配偶者の遺産に対し相続税がかかってしまうため、相続税の負担が大きくなってしまいます。一次相続で相続税をせっかく減らしても、二次相続の相続税と合わせるとかえって高くなってしまうケースもあります。以下で、具体的に相続税を比較してみます。
【具体的な例】
両親と子の3人家族で父が亡くなり(一次相続)、その後に母がなくなった場合(二次相続)
父の遺産額を2億円、母を0円と仮定すると…
一次相続の時点で、法定相続分で遺産分割した場合と、配偶者の税額軽減を最大限に利用した場合で、相続税がいくら変わってくるのか計算してみましょう。
法定相続分は配偶者が50%、子が50%です。
一次相続では、母と子どもで1億円ずつ分けることになります。このときの相続税額は母が0円、子が1670万円です。次に、二次相続では母が相続した1億円を子がそのまま相続します。そのため二次相続では子は1220万円の相続税がかかります。一次と二次の相続税の合計金額は2890万円です。
次に、一次相続において相続税のかからない最大額の1億6,000万円を母が相続した場合です。そうすると、子どもは残りの4000万円を相続します。この場合の相続税は母が0円、子が668万円です。その後、二次相続の際には子どもは母が相続した分の1億6000万円を相続することになるため、相続税は3260万円です。この場合の一次・二次の合計額は3928万円となります。
このように、配偶者の税額軽減を利用した場合の方が一次相続での相続税は少なくてすみます。しかし、二次相続で相続税が高額になってしまい、一次・二次の合計では1038万円の差がついてしまいます。つまり、一次相続の時点で二次相続まで見越した遺産分割が重要となってくるのです。
上記のように、二次相続のための対策とは二次相続が始まってからではなく、一次相続時点から始めることが重要となってきます。では、二次相続対策とはどのような対策があるのでしょうか。以下で紹介していきます。
まずは「生前贈与を活用する」という方法があります。これは、贈与税の控除枠を利用するもので、1人あたり年間110万円までは非課税となります。つまり、配偶者が子に生前贈与をすれば、二次相続のときの相続税の対象となってしまう財産を減らすことができるのです。ただ注意点として、「生前贈与加算」があります。これは、相続開始前の一定期間内に生前贈与があった場合、この贈与された財産を相続財産に加算するという制度です。令和5年の税制改正により、この加算対象期間が死亡までの3年以内から7年以内に変更となりました。
生前贈与については別の記事で詳しく解説していますので、下記のリンクからご参照ください。
生命保険に加入しておくことも対策の1つです。その際は受取人を子どもにしておくことをおすすめします。配偶者の相続財産(現金)が増えると、二次相続で課税財産が増えてしまうためです。死亡保険金には「500万円×法定相続人」の非課税枠があり、その分の相続税をおさえることがきます。また、保険金は相続で分け合う対象ではないため、「相続人同士のトラブルを回避する」点や、現金で支払われるため「納税資金として活用できる」点といったメリットもあります。一次相続と二次相続の両方で生命保険の非課税枠の活用することにより、相続税の負担を減らすことが可能です。
一次相続では被相続人の自宅においては配偶者が相続されることが多いですが、同居している子どもがいれば、子どもがその自宅を相続することによって、二次相続の対策となります。一次相続の際に配偶者が相続すると、二次相続のときにその自宅が遺産として課税されてしまうからです。したがって、子どもに自宅を相続させ、小規模宅地等の特例を適用することによって、残された配偶者の財産を減らし、更に子どもの相続税の負担も減らすことができます。相続する財産のうち、将来価値が上がると考えられる土地、株式などは一次相続の時点で子どもへ相続しておくことにより、値上がる前のより低い評価額にて相続ができます。
これは相続対策ではありませんが、もしも一次相続と二次相続が10年以内に起こった場合、「相次相続控除」という制度を適用できる可能性があります。この制度は、一次相続で被相続人が納めた相続税のうちの一定額を、二次相続の相続税額から控除するというものです。二次相続において相次相続控除を適用するケースは少ないかもしれません。一次相続の際に配偶者の税額軽減により、配偶者=二次相続の被相続人の相続税が0円となることが多いためです。例えば、親から子、子から孫への相続が短い期間で発生した場合には適用できる可能性もありますので知っておいてください。
相次相続控除について詳しくは、国税庁HPを参考にしてください。
国税庁ホームページNo.4168 相次相続控除
このように、二次相続は一次相続よりもトラブルが発生しやすく、相続税も高額になる可能性が高いため、一次相続の時点で二次相続までを見越した対策が必要となってきます。ですが、配偶者の財産を大きく減らしてしまうと、その後の生活に困る可能性もあります。相続税の負担を減らすことだけでなく、残された家族全員が納得できるよう計画を立てていくことが大切です。早めに二次相続までのシミュレーションを行い、対策を行うことで相続税の負担を抑え、家族間のトラブルも回避しやすくなります。
二次相続の相続税を抑えるためには、様々な控除や特例に関する知識が必要です。二次相続対策について、具体的には相続専門の税理士に相談することをおすすめします。税理士法人プラスカフェでは専門の税理士が相談、シミュレーション、申告を一貫して担当させていただきます。初回無料相談もございますので、ぜひご検討ください。
(※この記事は、令和7年5月20日現在の法令に基づいています。)