税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香
大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。
当ブログではこれまで、相続税の計算や相続財産の評価、遺産分割協議についての記事をアップしてきました。今回はその大前提となる、「そもそも相続人とは誰のことなのか」を解説します!
どのような関係の人がどのような優先順位で相続人となるのか、これは相続税の計算にも影響する大事な前提事項ですので、ぜひ【保存版】としてご活用ください。
目次
「法定相続人」とは一般的に、亡くなった人の配偶者や子などの親族のことで、「相続する権利を持つ人」のことをいいます。「相続人」とは、「実際に相続によって財産を受け取った人」のことをいいます。
法定相続人となる人は民法に規定されており、血縁関係によって順位が決められています。
故人の配偶者は、常に相続人となります。この「配偶者」とは法律上の夫/妻のことであり、内縁・事実婚の夫/妻として夫婦同様に暮らしていた実績があっても認められません。(内縁関係の人に相続させたい場合は遺言が必要)
では次に、配偶者以外に子や孫、両親がいる場合等の順位について見てみましょう。また、配偶者がいない場合でも、この優先順位は変わりません。
先ほども触れたように、相続は民法と密接な関係にあります。民法では、上の世代からした下の世代へ財産が移転(相続)することが自然な流れとされているため、子が第1順位となります。
※嫡出子、非嫡出子、養子等については詳しく後述します。
被相続人に子がいない場合は、被相続人の父母などの直系尊属が優先されます。
被相続人に子がおらず、さらに直系尊属もいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。
同じ順位の人が複数人いる場合、その人たちのあいだに優先順位や人数の制限はなく、全員が相続人となります。
たとえば、被相続人に子が2人いる場合、その2人はどちらも相続人となります。被相続人に子がおらず、父母ともに存命であれば、父母どちらも相続人となります。
遺言は、誰に、どの財産を、どのくらいの割合で相続させるかを被相続人の意思で決め、書面におこしたものです。有効な遺言がある場合は、遺言の内容が優先されます。法定相続人であるか否かや、法定相続人の優先順位がどの順位かということに関わらず、受取人(遺言によって財産を受け取る人を「受遺者」といいます)を設定することができます。
「遺留分」とは、被相続人の一定の近親者のために法律上留保しなければならない相続財産の一定割合(法定相続分の2分の1)のことをいいます。言い換えれば、「近親者に最低限保証された遺産の取得割合」です。これは、次の一定の法定相続人に認められている、遺言によっても奪えない権利です。
※兄弟姉妹は対象ではありません
上記に該当する場合で、最低限取得できるはずの遺産=遺留分が遺言内容等により受け取れない場合、受遺者に対して遺留分侵害額の請求をすることができます。
相続人が複数人いるとき、遺産はいったん共有財産となり、各相続人はそれぞれ決められた割合の相続権利(義務)を持つ状態となります。
実際は、相続人全員で遺産分割協議を行なって遺産を分割します。その協議が完了するまでに各相続人が持つ決められた割合のことを「法定相続分」といいます。
法定相続分は、相続税を計算する際にも必要ですが、実際の遺産分割にその割合を適用しなければならないわけではありません。
被相続人の配偶者と、法定相続人の法定相続分を、順位ごとに解説していきます。
①第1順位:子
配偶者1/2
子 1/2
②第2順位:直系尊属
配偶者 2/3
直系尊属1/3
③第3順位:兄弟姉妹
配偶者 3/4
兄弟姉妹1/4
各順位の人数が2人以上のときは、法定相続分をさらにその人数で均等します。例えば、配偶者と子が2人(法定相続人計3人)の場合の法定相続分は、配偶者が遺産の1/2、子が遺産の1/4ずつ、となります。
ここまで第1順位として解説してきた「子」、第3順位の「兄弟姉妹」ですが、
これらの場合はどうなるのでしょうか?実はケース別に明確に法定相続分が定められています。詳しく見ていきましょう。
この場合の父子関係は「認知」によって生じます。認知された子は、嫡出子と同等の法定相続分を有します。認知されていない子には相続権はありません。
被相続人が離婚や再婚をしており、前妻/夫とのあいだ(および後妻/夫)に子がいる場合、この「子」は全員法定相続人となり、子らの法定相続分は平等です。
被相続人に、相続人になり得る子(第1順位)、さらに直系尊属(第2順位)もいなければ、兄弟姉妹(第3順位)が相続人となります。
子の場合、被相続人の父母のうち一方のみを同じくする「半血兄弟姉妹」の相続分は、父母の双方を同じくする「全血兄弟姉妹」の1/2となります。
例えば独身の人が亡くなり、第1~第3順位に該当する法定相続人が誰もいない場合、また相続人が全員相続放棄した場合は、遺産の行方や相続手続きはどうなるのでしょうか?
たとえ法定相続人がいなくても、遺言で知人等を受遺者に指定していれば大丈夫です。しかし遺言もなければ特別縁故者に遺産の一部または全部が分与されます。
特別縁故者もいない場合は、利害関係者や検察官の請求により、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任します。相続財産管理人が関係者等の調査を行ない、相続人となり得る人がいないと確定した場合は、遺産は国庫に納められる、つまり国の財産となります。
「代襲相続人」とは、相続人になるはずであった子または兄弟姉妹が、被相続人より先に死亡した場合に、その人に代わって相続人となる者のことです。
代襲とは、上の世代から下の世代に世襲することであるため、直系尊属への相続に代襲制度はありません。
被相続人には子と孫がいて、相続開始時には既に子が亡くなっている場合、孫が相続人になります。代襲相続で最もわかりやすいのがこのケースです。第1順位の「子」に関しては、子→孫→ひ孫と代襲相続は無制限です。
子が存命であれば、遺言で孫を受遺者に指定していない限り、孫は受遺者にはなりません。
孫に遺産を相続させた場合は、孫を養子にする、また生前贈与という方法があります。
しかしこの場合、相続人同士の関係性や負担する相続税・贈与税を慎重に検討しているか等に留意したうえで、専門家に相談することをおすすめします。
第3順位の兄弟姉妹の代襲相続は一代限りです。よって、代襲相続分は被相続人からみた甥・姪までということになります。それ以降は認められません。
養子と相続について解説するまえに押さえておきたいのが、「相続税の計算」と「法定相続人の数」の関係です。
相続税の計算をする際、次の4点については法定相続人の数が重要となります。
相続税には基礎控除があり、法定相続人の数が多ければ控除額が増える仕組みになっています。また、相続人が受け取った被相続人の死亡保険金や死亡退職金(みなし相続財産)にも非課税枠があり、法定相続人の数が多ければ非課税限度額が増えます。
民法において養子は、縁組の日から養親の嫡出子としての身分を取得します。しかし、たくさん養子縁組をすれば相続税対策ができてしまうのかといえば、必ずしもそうではありません。相続税法上では、法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、一定数に制限されています。パターン別にご紹介いたします。
ただし、明らかに相続税対策として養子縁組を行なったと判断された場合、税務署から養子縁組を否認されるケースもあります。
次のどれかにあてはまる養子は、人数の制限なく全て法定相続人の数に含まれます。
養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」があり、どちらで縁組されたかによって法定相続人の数が変わることがあります。
相続に係わる養子縁組の内容は、次の通りです。
普通養子縁組 | 特別養子縁組 | |
実親との親子関係 | 親子関係は維持される | 親子関係は終了する |
実親からの相続 | 相続権を有する | 相続権を有しない |
戸籍の表記 | 実親の名前は記載される
養子と明記され、続柄は「養子(養女)」 |
実親の名前は記載されない
養子との記載はなく、続柄は「〇男(〇女) |
ご自身が養子である方は、どちらの縁組であったのかによって、相続にかかわる回数が変わってきます。養親の親族等に事情が共有されているのか等、被相続人の生前に情報を整理できていればベストでしょう。
相続権を手放すことを「相続の放棄」といいます。
相続を放棄すると、はじめから相続人とならなかったものとみなされるため、代襲相続もありません。たとえば、被相続人の子が相続を放棄した場合、孫は相続人にならないということです。
ただし、法定相続人のなかに相続を放棄した人がいても、その放棄はなかったものとして法定相続人の数は計算されます。そのため、相続の放棄があっても相続税の基礎控除額は変わりません。また、相続の放棄により同一順位の相続人がいなくなった場合は、次の順位の人が相続人となります。
相続の放棄は、遺産分割時に何も相続財産を取得しない、いわゆる「財産放棄」とは異なります。放棄する本人が、相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所に書類を提出し、手続きを完了させなければなりません(単独申請可)。他の相続人に話をつけておく、等では相続の放棄とはならないのです。
被相続人にプラスの財産だけでなく負債等のマイナスの財産もある場合、相続人にはその債務を弁済する義務があります。被相続人にどれだけの負債があるのかを把握することが難しく、不安を感じる人も多いはずです。そこで、プラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続する方法があります。これを「限定承認」といいます。相続したい特定の遺産があるものの、負債が多くあることがわかった場合などは、限定承認によって残せる可能性があります。また、相続の放棄をすると代襲相続はなくなりますが、限定承認を選択した場合はなくならない等のメリットがあります。しかし、相続人全員で家庭裁判所への申述申請が必要であること、債権者等への清算手続き等の手間が多いこと等のデメリットもあります。
相続の放棄、限定承認ともに慎重な検討と各種手続きが必要ですので、事前に専門家に相談するのもよいでしょう。
相続人を特定する際、音信不通・行方がわからない人がいる場合は、どうすればよいのでしょうか。また、相続秩序を著しく侵害する相続人がいて、その人に相続権があることに疑問を抱く場合等はどうすればよいのでしょうか。
珍しいケースではありますが、それぞれの対処方法と制度をご紹介します。
連絡がとれない相続人、行方不明の相続人を放置して遺産分割や相続手続きを進めることはできません。まずは連絡が取れるか試みましょう。被相続人の除籍から相続人の戸籍を追い、その本籍で戸籍の附票を取得すれば、相続人の所在を特定できる可能性があります。訪問したり、手紙を送ることから始めてみましょう。
それでも所在がわからなければ、家庭裁判所に不在者財産管理の選任を申し立て、行方不明者の代わりに相続手続きに協力してもらいます。
相続人となる者(推定相続人)が、被相続人に対して重大な侮辱を加えたとき、著しい非行があったときは、被相続人はその者を相続人から除外するよう家庭裁判所に請求することができます。これを相続人の「廃除」といいます。
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する内容を記しているときは、遺言執行者がその廃除を遅延なく家庭裁判所に請求することとなります。
被相続人や他の相続人を死亡させるなど刑に処せられた者から相続権を剥奪する制度を「欠格」といいます。また、被相続人の遺言を故意に偽造・破棄・隠匿した場合も、欠格事由とみなされます。
相続順位を理解しておくことで、いま直面している相続だけでなく、その先に発生する相続の対策にもつながります。相続人の特定や最初の段階でつまずいてしまうと、そのあとの相続手続きを進めることはできません。ぜひ、この記事をご活用ください。
ご自身では判断が難しいと感じられる方や、相続手続きに不安をお持ちの方は、税理士や司法書士等の専門家への相談をおすすめします。税理士法人プラスカフェでは、相続に強い税理士が親身に・わかりやすくご相談に対応いたします。司法書士との迅速な連携も強みとしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
※この記事は、令和5年10月31日現在の法令に基づいています。