遺産分割協議書とは?書き方のポイントや必要性を解説!

この記事の監修

税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香

大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。

遺産を受け取る立場となったとき、遺言がなければ、相続人同士でその分け方を話し合って決めなければなりません。これを「遺産分割協議」といいますが、円満に協議を終えられるケースばかりとは限りません。口約束だけでは後々のトラブルにつながるおそれも考えられます。

また遺産分割協議書は、各人の相続税申告に必要なほか、その他手続きにも必要となる場合があります。この記事では、遺産分割協議書の概要や作成手順、どのようなタイミングで協議書が必要となるのかをまとめてご紹介いたします。

 

1.遺産分割協議書のルール

相続人同士で遺産の分割内容を話し合い、その結果をまとめた書類を「遺産分割協議書」といいます。ポイントは次の2つです。

①遺産分割協議には相続人全員が参加しなければならない

②相続人全員の合意が得られた結果を記すこと

いちど作成した協議書の内容を変更するには、再度相続人全員で協議のうえ合意を得なければならず、時間と手間を要します。相続税申告も進まなくなってしまいますので、遺産の分割は慎重に・全員で検討しましょう。

 

協議書の書式について

遺産分割協議書の書式は定められていませんが、

  • 相続人全員の署名と実印の押印
  • その実印の印鑑登録証明書の添付

が必要となります。手書き・印字、縦書き・横書き等は自由ですが、書き損じを防ぐためにも印字をおすすめします。

 

2.遺産分割協議書はなぜ必要?

遺産分割協議書は、相続税申告と、遺産を取得する際の手続きに必要となります。遺言がなく相続人が複数人いる場合は、必ず遺産分割協議が必要となり、申告や手続きの書類に協議書を添付しなければなりません。

「法定相続分」という言葉を知っている人は、法定相続分通りに分けるなら協議は必要ないのでは?と考えるかもしれません。しかし実際は、「土地を相続人全員で等分ずつもらい、共同で管理する」「銀行預金を1円単位で等分する」となると非常に扱いが不便であったり、権利問題に発展する可能性が出てくるのです。

また前述しましたが、一部の相続人同士での口約束などでは、互いの認識の違いや言った言ってないのトラブルが後々発生することも考えられます。「争族」とならないよう、相続人全員が確認できるよう書面に残しましょう

では、実際に必要となる場面での活用方法を解説します。

 

相続税の申告

相続人が複数人いて遺言がない場合は、必ず協議書と印鑑登録証明書を申告書に添付しなければなりません。誰がどれだけの遺産を相続するかによって、各相続人が負担する相続税額の割合が決まるため、税務署に分割内容を示す必要があります。

 

不動産や車の名義変更

土地や家屋等の不動産、自家用車等を相続する人は、名義変更(相続登記)をしなければなりません。取得後すぐに売る予定の人も、名義変更していなければ売却手続きができません。

また変更せず長年放置して、相続するはずであった相続人が亡くなってしまったりすると、後々の手続きがさらに複雑になるほか、その財産を手放すことさえできなくなる可能性も出てきます。

 

【遺言】協議書が必要ないケース

相続人が1人であれば、すべての財産を1人で相続することになり、遺産の「分割」が発生しないため協議は不要です。

また被相続人(故人)が生前に遺言書を作成していた場合、原則として相続は遺言の内容に従います。しかし、相続人全員が遺言の内容に反対するケースも考えられます。この場合は相続人同士で遺産分割協議を行ない、全員が納得・合意した内容で遺産分割協議書を作成することが可能です。

 

協議を行なうタイミング

全ての遺産の把握・評価を終えてから、遺産分割協議を始めましょう。不動産等、思っていたより価額が高かった・低かったというのはよくあることです。相続人全員が正しい価額を共有できるまでは、協議はおすすめできません。

また、相続税の申告と納税の期限は、相続発生(死亡日)から10ヶ月です。一度で協議が終わる見込みがない場合や、遠方に相続人がいる場合は、計画的に協議の予定を立てておきましょう。

 

3.遺産分割協議書作成の4つのステップ

作成の流れは次の通りです。

  1. 相続人を確定させる
  2. 遺産を把握・確定する
  3. 遺産分割協議を行なう
  4. 遺産分割協議書を作成する

順を追ってご説明します。

 

ステップ①相続人を確定させる

誰が相続人に該当するのか、相続人が何人いるのか確定します。被相続人に認知した子がいたなどの事実をあとから知っては、協議はやり直しとなります。被相続人の戸籍謄本を取り寄せ関係を明らかにすれば、相続人の人数を確定することができます。

 

ステップ②遺産を調査・確定する

被相続人が所有していた財産を調べて確定させます。預貯金や現金といったわかりやすいものばかりとは限りません。土地、有価証券などは、所有していたことすら知らされていないケースも多いため、手がかりや資料を見落とさないよう注意しましょう。

また、借入金(ローンなど)といったマイナスの財産の把握も忘れないようにしましょう。

遺産分割協議だけでなく相続税計算でも必要な情報ですので、財産目録を作成しておくとよいでしょう。

 

遺産の確認方法

預貯金の通帳や郵便物の内容をたどることで、お金の流れ(入金と出金)を知ることができます。たとえば配当金や家賃収入としての入金があれば、不動産や株式等を所有していたことがわかります。またローン返済の出金があれば、借入の残高表が保管されているかも確認しましょう。

また金融機関や証券会社、市区町村からの郵便物があれば、さらに確かな情報や問い合わせ先が記載されていることが多いため、保管されているか探してみましょう。

 

死亡日以降の入出金も要チェック

相続財産の評価は、原則被相続人が亡くなった日が基準となります。しかし、相続開始日(死亡日)以降に、本来被相続人が受け取る権利を持っていた・支払う義務があったもののなかには、相続税の計算に含めなければならないものがあります。

たとえば生前使用分の光熱費の請求書が来ていれば、相続人が変わりに支払うこととなりますが、これは「債務控除」として相続財産額から控除できます。日付だけで要不要を判断せず、ひとまず資料をコピーしておくとよいでしょう。

 

ステップ③遺産分割の協議を行なう

遺言の有無を確認し、ない場合は遺産分割協議に入ります。前述した「協議を行なうタイミング」を念頭に置き、確定した遺産の情報(財産目録)を相続人全員で共有して話し合いましょう。

 

ステップ④遺産分割協議書を作成する

協議内容に相続人全員の合意が得られたら、いよいよ遺産分割協議書の作成です。記載する事項は次の通りです。

  • 被相続人の氏名、亡くなった年月日、最後の本籍地や住所
  • 相続人全員が、遺産の分割内容に合意している旨の内容
  • 分割する相続財産の内容…預貯金であれば金融機関名・支店名・口座番号・名義人、不動産であれば所在地番や地積、被相続人の持分と各相続人への分割割合などを具体的に書きます。
  • 相続人全員の氏名、住所、実印の押印

 

自分が相続する遺産についてばかり着目してしまうかもしれませんが、必ず記載内容全てに全員で目を通し、間違いないかを確認しましょう

 

具体的な記載例

ではここで記載例を見てみましょう。

 

 

 

相続人ごとや財産ごとにまとめると見やすく、いざ財産の相続手続き(名義変更等)に移る際にもわかりやすいでしょう。

 

契印・割印について

複数ページにわたる場合、差し込み・改ざん・複製等を防止するため、協議書に実印で契印をするとよいでしょう。製本タイプの協議書にするのであれば、ページ見開きの中央にまたがるように押したり、背表紙テープと紙面にまたがるように押したりします。ページ数も書いておけば、抜き差し防止にもなります。

1枚におさまる協議書であれば、全員分の協議書にまたがるように上部に実印で割印を押す場合が多いです。

 

4.【要注意】協議書の書き方の3つのポイント

遺産分割協議書の書式・フォーマットは決まっていないものの、曖昧な書き方や、一部の相続人にしか特定できない書き方では、金融機関等への相続手続きの際に効力を持たない協議書となってしまいます。作成時の注意点をご紹介いたします。

 

ポイント①正確に、過不足なく記載する

作成の流れでご紹介したように、金融機関に関しては支店名や口座番号まで書きましょう。ただし、通帳記入済みの最終残高をそのまま協議書に記載するのは避けましょう。相続発生日や協議書を作成した日から、実際に解約する日までのあいだに利息が付いていたりすると、協議書と金額が合わなくなってしまいます。書き方としては、「~の預金の全額」や「~の預金の〇分の〇ずつ」などがよいでしょう。

また不動産の情報は、登記簿の表記をそのまま記載しましょう。

借入金などのマイナスの財産に関しても記す必要があります。債権者、契約内容等を記載しましょう。また、相続人のなかの誰がどれだけの割合を負担するのかも必須です。

 

ポイント②後で見つかった遺産についても明記する

遺産分割協議が成立した後で新たな遺産がみつかった場合はどうするのか、明記しておくとよいでしょう。漏れのないよう遺産の確定作業を行なったとしても、把握漏れの可能性はゼロではありません。「新たに見つかった場合はあらためて協議する/相続人の○○が全てを相続する」などと明記しておくと、後々のトラブルを防ぐことにつながります。

 

ポイント③遺産分割協議書は全員で保管する

記載例にあったように、協議書が完成したら、相続人が各自1通ずつ所有・保管します。1通でも問題はないとされていますが、後述する相続手続きでも必要となるため、相続人全員が所有することをおすすめします。パソコン等で作成し、人数分印刷するとよいでしょう。

また不動産登記や預金関係の手続きでは、印鑑登録証明書の提出も併せて求められるため、事前に用意しておくとよいでしょう。

 

5.おわりに

今回解説したように、遺産分割協議書は自力で作成できるものです。しかし、故人を偲ぶなかでの遺産の調査や協議書の作成は、思いのほか労力と時間がかかります。専門家に依頼することを視野に入れてみてはいかがでしょうか。

税理士法人プラスカフェでは、行政書士を兼ねた税理士が相続を担当しております。遺産分割協議書作成の代行だけでなく、相続税申告の代行や、誰がどの遺産をどれだけ相続したら税金がいくら発生するのか事前の試算も可能です。またグループとして司法書士とも連携しておりますので、不動産等の相続財産の名義変更まで幅広くカバーさせていただきます。お気軽にご連絡ください。

 

 

※この記事は、令和5年8月17日現在の法令に基づいています。

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