【公正証書遺言】相続の不安をなくすためのポイントを解説!

この記事の監修

税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香

大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。

自身が生涯をかけて築いてきた大切な財産を、大切な人に・有意義に活用してもらうための意思表示が、遺言です。今回詳しく解説する「公正証書遺言」には、相続人間でのトラブルを防止し、遺言者の意思を示す手段としての多くのメリットがあります。また近年、相続税の申告件数と納税額は増える傾向にあるため、相続人の納税シミュレーションまで済ませておくことも、大きな安心につながります。

そのほかの遺言の種類もご紹介いたしますので、それぞれのメリット・デメリットを押さえ、相続・遺言への不安解消にお役立てください。

 

遺言とは?厳格な方式の定めについて

遺言は、遺言者の意思を確かに実現させるため、法律によって厳格な方式が定められています。よって、その方式に従わない遺言は無効となります。納得のいく遺言内容(誰に何を相続させるか)が書けたとしても、外形的(日付や署名、押印の有無、書式等)なミスや漏れがあれば、せっかく作成した遺言も効力を持たないのです。

 

遺言の種類と作成方法

遺言には、

  1. 自筆証書遺言
  2. 公正証書遺言
  3. 秘密証書遺言

の3つがあります。作成方法は次の通りです。

 

遺言書の種類

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
作成方法等 ・全文を自書=手書き

(財産目録のみワープロ作成や通帳コピー等の添付可)

・押印は作成者分のみ

・遺言者と証人2名以上が、ともに公証役場へ赴く

・公証人に遺言内容を口述し、公証人が筆記

・遺言(自筆・代筆・ワープロ作成可)を封印(他者に内容を見せる必要なし)

・公証人及び証人2名による証明が必要(封筒に署名押印)

証人 不要 2名以上必要 2名以上必要
検認 必要 不要 必要

 

現代における遺言書作成の注意事項

すべての種類の遺言書に共通しますが、「パソコン等にデータとして保存された遺言書は無効」です。

「ワープロ作成可」であっても、必ず決められた様式の紙に出力しなければなりません。テンプレートがあり、簡単に遺言書が作成できるツールも出回っていますが、そのデータの保存や共有だけでは効力を持たないことを覚えておきましょう。

 

よく出てくる用語について

ここまでに、聞き慣れない用語がいくつか出てきました。遺言の場面における意味を確認しておきましょう。

 

⑴公証人

法律の専門家のなかから認められた、「公証」の実務を行なう者。法務大臣が任命しています。

 

⑵公証役場

公証人が、遺言の確定日付の付与等の職務を行なう事務所。各都道府県に数か所あります。

 

⑶証人

公正証書遺言の作成には、2名の証人の立ち合いが義務づけられています。この証人は、遺言者側で準備することが可能です。適切な証人が見つけられない場合は、公証役場で紹介してもらうこともできます。

ただし、遺言者との利害関係や適式な手続きとなることを考慮し、次に該当する人は証人となることができません。

  1. 未成年者
  2. 推定相続人
  3. 遺贈(=贈与)を受ける人
  4. 推定相続人および遺贈を受ける人の配偶者および直血族等

 

⑷検認

遺言書の内容や体裁を家庭裁判所が確認し、偽造等を防止する手続き。遺言書を発見した人または保管している人は、相続の開始を知ったあと、開封せずに速やかに家庭裁判所に提出しなければなりません。

※検認を受けず開封されてしまった遺言書、および検認を受けていない自筆証書遺言・秘密証書遺言は、無効となります。

 

メリット・デメリットの比較とポイント

これらの言葉を踏まえて、それぞれのメリット・デメリットをまとめてみましょう。

 

遺言書の種類

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
メリット
  • 好きなときに作成できる
  • 費用がかからない
  • 遺言書保管制度を利用すれば、遺言書の有無の検索が可能
  • 依頼を経て公証人が作成するため、遺言者の意思が明確
  • 無効、偽造、紛失のおそれがない
  • 遺言書の検索が可能
  • 内容を秘密にしながら、遺言書の存在証明ができる
  • 代筆、ワープロ作成可
デメリット
  • 手書きミス、方式不備等により無効となるおそれあり
  • 第三者による破棄、偽造、隠匿のおそれあり
  • 発見されない可能性あり
  • 作成費用がかかる
  • 内容を秘密にはできない
  • 完成まで時間がかかる
  • 公証人による証明費用がかかる
  • 方式不備により無効となるおそれあり
  • 紛失、隠匿のおそれあり

 

★自筆証書遺言書保管制度とは★

自筆証書遺言の原本を法務局にて保管してもらえる制度です。

家庭裁判所での検認が不要なほか、遺言者の死亡後は法務局から相続人へ、保管の旨が通知されるため、紛失のおそれがありません。保管には手数料がかかります。

方式に不備がないかの外形的なチェックはなされますが、内容や文意の確認はされないため、ミスがあれば無効となるおそれがあります。

 

有効な遺言書にすることが第一

せっかく遺言書を作成するのであれば、自分の意思を確実に実現できるかどうかを第一に考えましょう。公正証書遺言は費用こそかかるものの、「無効、偽造、紛失のおそれがない」というメリットは非常に大きいといえます。

冒頭でご説明した通り、遺言には厳格な方式が定められています。方式に沿わないものを作成してしまっては、遺言が無効となるだけでなく、相続人の負担を増やしたり相続人間で揉める原因を作ってしまったりということになりかねません。

 

遺言書作成の目的を考える重要性

遺言書を作成する目的や、回避したいトラブルは、例えば次のようなものが挙げられます。

  • 相続人が複数いるため、遺産相続で揉めないでほしい
  • 誰に何をどれだけ相続してもらうか、財産を指定しておきたい
  • 法定相続人以外に、財産を遺したい人がいる
  • 遺産分割協議の手間をなくしておいてあげたい

 

遺言書の内容ももちろん大事ですが、正しい形式の遺言書を確実に遺しておくため、しっかりとメリット・デメリットを見極めましょう。

 

公正証書遺言

前述した通り、公正証書遺言は作成手続きの手間と費用がかかります。しかし、確かな情報を元に準備すれば、非常に確実性の高い遺言書が作成できます。具体的な流れをみていきましょう。

 

遺言作成手順

⑴相続(遺言)内容の整理

自分がどれだけの財産を遺すことになるか、それらを誰にどのような割合で相続させたいかをまとめましょう。メモ書きでも構いません。

 

⑵公証人への依頼、および士専門家への相談

①公証人に直接相談・依頼する場合

まとめた相続内容をもって、公証人に遺言作成の相談・依頼をします。メールや電話でも、役場を訪れても大丈夫です。

②専門家への相談

行政書士や税理士、司法書士等に遺言の相談をすることも可能です。公証人への依頼も、専門家を通じて行なうことができます。公証役場での遺言作成日までにあらかたの準備を整えてもらえるため、大きな安心材料となることでしょう。

 

★弊社の例★

税理士法人プラスカフェでは、行政書士を兼任している税理士が相続を担当しております。司法書士と連携して業務を行ないますので、遺言と相続に関する事前準備を広くカバーすることが可能です。

  • 遺言作成に必要な書類等のご案内、資料収集の一部代行
  • 財産目録の作成
  • 相続人に将来かかる相続税のシミュレーション
  • 遺言の草稿作成  etc.

 

こうした専門家への相談には多少費用がかかるものの、手間のかかる財産目録の作成や、公証人との慣れないやりとりを代行してもらえることは大きなメリットです。

 

⑶公証人による公正証書遺言の案作成・修正

財産目録や資料に基づいて、公証人が遺言の案を作成します。当事者はメール等で内容を確認し、修正を依頼するなどして完成形を作りあげていきます。

 

⑷遺言作成日の打ち合わせ

案が確定したら、当事者は公証役場へ行き、公証人と遺言作成日時を決めて当日へ向けた打ち合わせを行ないます。証人2名への日程確認も忘れずに。

また、公証人への手数料の金額もこのとき確定します。公証人への支払いは遺言作成当日となりますので、準備しておきましょう。

 

⑸公証役場での遺言作成当日

当日の流れは、次の通りです。

公証人と証人2名の前で、遺言者本人から遺言内容を口頭で告げる

公証人は、遺言者が判断能力を持っており、真意を述べていることを確認し、あらかじめ準備した公正証書遺言原本を、遺言者と証人2名に読み聞かせる(または閲覧させる)

内容に間違いがなければ、遺言者および証人2名遺言公正証書原本に署名・押印

(万一、内容に間違いがあれば、その場で修正することもあります)

公証人も原本に職印を捺印

完成!

 

作成に必要な資料等

公正証書遺言の作成には、本人確認書類等が必要です。公証人や専門家に依頼する段階から準備しておくと、打ち合わせや遺言案作成がスムーズに行なえます。

 

①遺言者本人に関するもの

  • 遺言原本に押印する印鑑(主に実印)の印鑑登録証明書 ※遺言作成日から遡って3ヶ月以内に発行されたもの
  • 顔写真付きの本人確認書類:運転免許証やマイナンバーカード、パスポート等の提示を求められることがあります

 

②相続人に関するもの

  • 遺言者との関係がわかる戸籍謄本
  • 相続人以外(法定相続人である配偶者や子ではない人で、友人や遠い親戚等)に財産を遺す場合は、その人(「受遺者」)の戸籍謄本および住民票

 

③証人に関するもの

  • 証人2名の氏名、生年月日、住所、職業が確認できる資料

 

④不動産に関するもの

  • 相続財産に不動産が含まれている場合は、「固定資産税納税通知書」または「固定資産評価証明書」、および「登記簿謄本」

 

遺言執行者を指名する場合

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため、相続の実務を担う人のことです。遺言執行者を指名したい場合は、遺言内容に盛り込むことができます。基本的にどなたを指名しても構いませんが、未成年者および破産者は遺言執行者になれません。

指名する場合に必要な書類は、次の通りです。

①相続人や受遺者を指名する場合:前述の戸籍や住民票でまかなえます

②相続人や受遺者以外の人を指名する場合:その人の氏名、生年月日、住所、職業等が確認できる資料

 

依頼・作成時の注意点:専門家を活用しよう

公正証書遺言の作成において公証人に依頼できるのは、「書面化」の代行と手続きのみです。誰に何を遺すのが望ましいのか、また予想される相続人への影響等を相談することはできません。

具体的なアドバイスを受けて後々のトラブルに備えるためには、行政書士や税理士等の専門家に相談することをおすすめします。

 

※この記事は、令和5年4月6日現在の法令に基づいています。

 

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