相続税の申告を自分でする場合に必要な準備や手順を解説!

この記事の監修

税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香

大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。

1.相続税の申告は自分でできる!

国の税金は、納税者ひとりひとりが、自ら税務署へ申告を行なうことによって税額が確定し、この確定した税額を自ら納付する申告納税制度を採用しています。所得税等と同様に、個人で申告・納付する手引きが準備されています。この記事では、自力で申告しようと考えている方へわかりやすく手順やポイントをまとめています。

申告が必要ないケース

遺産を相続することになった人は全員、相続税申告をして、相続税が発生して、納税しなければならないのか…?というと実はそうではありません。申告が必要ないケースもあります。

遺産の課税価格が、相続税の基礎控除額を下回る場合には相続税はかからず、申告も不要です。また、基礎控除額を上回っても、いくつかの申告不要な税額控除等が適用されて税額が0円になる場合があります。詳しい要件は、この記事の後半でわかりやすく説明いたします。

 

2.相続税申告を自分で行なうのに向いている場合とそうでない場合

相続税申告は自力で完結させることもできますが、税理士などの専門家に代行を依頼する人も多くいます。では、申告を自分で行なうのに向いている場合、向いていない場合とは、どのように見極めればよいのでしょうか?

 

自分で行なうのに向いている場合

相続税申告を自分で行なうのに向いている案件は、次の要件を満たすような場合です。

①相続人が1人の場合

相続人が自分ひとりであれば、遺産分割協議も必要なく、相続トラブルに発展する心配もありません。

②特例等によって相続税が0円になる場合

相続税には、小規模宅地の特例や、配偶者の税額軽減など、申告することで適用できる各種特例があります。これらは相続税額の大幅な軽減につながることが多く、税額が0円になるケースも少なくありません。さらに相続人が自分ひとりであれば尚更、自分で申告を行なうリスクは非常に低いと判断できます。

③遺産が預貯金のみの場合

評価額の計算が複雑な不動産などの遺産がなく、預貯金や現金だけの場合は、自力での申告が比較的簡単に行なえます。

 

自分で行なうのに向いていない場合

反対に、相続税申告を自分で行なうのに向いていない案件は、次のような場合です。

①評価が複雑な相続財産がある

不動産や非上場株式など、評価額の算出が難しい遺産がある場合は、税理士などの専門家に依頼することをおすすめします。また、名義預金があったり、被相続人と相続人のあいだで資金移動があった場合も、何を相続財産とするかの判断は税理士に任せた方がよいでしょう。

②遺産分割が円満に進まない

相続人が複数人いて、誰がどの遺産を相続するのか揉めている場合も、自力での申告には不向きです。遺産分割協議を完了させて期限内に申告するためにも、税理士など第三者へ相談して助言を受けましょう。

③生前贈与があった

被相続人が生前、相続人に対して贈与をしていた場合は、一定期間の贈与財産を相続財産に加算して相続税額を計算しなければなりません。贈与の際に贈与税を納めている場合は、相続税額からその贈与税額が控除されます。初見では難しいため、税理士に相談することをおすすめします。

 

3.相続税申告を自分で行なう場合の必要な準備と手順

相続は、被相続人(亡くなられた人)が死亡した事実から始まります。正しく申告・納税するために確認すべきことを、順を追ってみていきましょう。

 

①申告期限の確認

相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行ないましょう。例えば死亡日が1月5日だと、その年の11月5日が申告の期限です。なお、この期限が土曜日、日曜日、祝日などに当たる場合はこれらの日の翌日(いわゆる休み明けの日)が期限となります。また、納税期限も同じとなっていますので、申告後もしくは申告と同時に相続税を納めましょう。

 

②申告書を入手する

相続税の申告書は、第1表~第15表からなります。最寄りの税務署に置かれているほか、国税庁のHPからダウンロードも可能です。

 

③相続人を確認する

被相続人にとってどういった関係の人が・何人の人が遺産を受け取るのか、その相続人全員で確認・把握しましょう。各人の本籍地から戸籍謄本を取り寄せて、被相続人と、すべての相続人の関係をあきらかにします。

 

法定相続人と相続人について

「法定相続人」とは一般的に、亡くなった人の配偶者や子などの直系卑属・尊属のことで、「相続する権利を持つ人」のことをいいます。「相続人」とは、「実際に相続によって財産を受け取った人」のことをいいます。少しややこしいですが、法定相続人である人が相続を放棄した場合などは、その人は「相続人」ではなくなります。また、遺言で遺産を受け取ることになった知人などは「遺贈を受ける」人となり、「相続人」とは扱いが異なります。

 

遺言の有無の確認

被相続人が生前に遺言を記していないか確認しましょう。遺言書があれば、遺言書を開封する前に家庭裁判所で検認を受けます。ただし、公正証書および法務局に保管された自筆証書による遺言は、検認を受ける必要はありません。

 

④遺産(プラスの財産、マイナスの財産)の確認

遺産には、現預金などのプラスの財産、借入金などのマイナスの財産があります。税額計算や申告書作成に活用するため、わかりやすい目録や一覧表を作成しましょう。

 

主なプラスの財産

(1)被相続人が亡くなった時点において所有していた財産

土地、建物、預貯金、現金、有価証券などのほか、金銭に見積もることのできるすべての財産が相続税の課税対象となります。そのため、日本国内に所在する財産のほか、日本国外に所在する財産も課税対象となります。また、被相続人の家族名義であっても、被相続人の財産であれば課税対象です。

(2)みなし相続財産

生命保険金や退職手当金などは、被相続人死亡の事実により支払われ相続人が取得する「みなし相続財産」として課税対象となります。ただし一定の金額までは非課税となります。

こちらの記事にて詳しく解説しています!→【相続税の申告が不要な生命保険とは?】

 

債務

被相続人の借入金や未払金のほか、本人が納めなければならなかった税金などは、マイナスの財産として相続財産の価額から差し引くことができます。

 

葬式費用

被相続人の葬式にかかった費用も、マイナスの財産として相続財産の価額から差し引くことができます。お寺や葬儀社への支払い、通夜葬式に要した費用などが該当します。なお、墓地や墓碑の購入費用、香典返しや法要に要した費用は含まれません。

 

⑤遺産の評価

相続税がかかる財産の評価方法については、国から一般に公表されています。評価額を調べ計算する必要がある財産のなかから、代表的なものをご紹介いたします。

 

宅地

宅地の評価方法には【路線価方式】と【倍率方式】があります。

【路線価方式】

路線価が定められている地域の評価方法です。路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートルあたりの価額のことで、国税庁HP内の「路線価図」にて確認できます。宅地の価額は原則として、路線価をその宅地の形状等に応じた調整率で補正した後、その宅地の面積を掛けて計算します。

【倍率方式】

路線価が定められていない地域の評価方法です。宅地の価額は原則として、その宅地の固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて計算します。→【評価倍率表】

 

上場株式

上場株式は、その株式が上場されている金融商品取引所が公表する価格をもとに、次のうち最も低い額により評価します。

  1. 相続開始日の最終価格
  2. 相続開始日が属する月の毎日の最終価格の月平均額
  3. 相続開始日が属する月の前月の毎日の最終価格の月平均額
  4. 相続開始日が属する月の前々月の毎日の最終価格の月平均額

 

なお、相続開始日に最終価格がない場合やその株式に権利落などがある場合には、一定の修正をすることになっています。

 

 

⑥特例・控除・加算等の確認

相続税額を軽減できるか、または税額が加算される対象であるかを確認します。代表的なものをいくつかご紹介していますので、該当する場合は提出書類にも注意しましょう。

特例・控除・税額軽減

  • 基礎控除

前述の「申告が必要ないケース」の通り、相続税には基礎控除があります。基礎控除額は、「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」と定められています。

その他の控除には、

  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者控除
  • 障害者控除

などがあります。大きな節税につながるものばかりなので、適用対象であるか確認しましょう。

また土地に関しては、定められている条件に該当した場合、

  • 小規模宅地の特例
  • 農地等の納税猶予の特例

などの適用を受けることができます。同じく大きな節税につながるので、ぜひ確認しましょう。

こちらの記事にて詳しく解説しています!

【相続税申告が不要な場合とは?】

 

 

税額加算

相続人が、被相続人の1親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)および配偶者以外である場合、その人の各種税額控除前の相続税額の20%相当額が加算されます。これを「2割加算」といい、被相続人の兄弟姉妹などがこれに該当します。

 

⑦遺産の分割

遺言書がなく相続人が複数いる場合には、相続人全員で遺産の分割について協議をし、分割協議が成立した場合には「遺産分割協議書」を作成しましょう。

なお、相続人のなかに未成年者がいる場合には、その未成年者について家庭裁判所で特別代理人の選任を受けなければならないことがあります。その際は特別代理人が、その未成年者に代わって遺産の分割協議を行ないます。

 

⑧申告書を作成する

作成した財産目録をもとに、申告書を記入していきます。申告書は第1表~第15表までありますが、必ずしも全員が全ての表を記入・提出しなければならないということではありません。該当する相続財産に関するものに記入し、添付書類が必要な場合は併せて提出しましょう。

書き方・記入例は、国税庁HPにて掲載されています。

【相続税の申告書の記載例(令和4年分用】

【相続税申告書の記載例】事案を用いた解説です。

 

⑨申告と納税

作成した申告書を税務署に提出(申告)し納税することで、完了となります。被相続人の死亡時における住所が日本国内にある場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署が提出先です。相続人の住所地ではありません。相続税は、申告書の提出期限までに、原則金銭で納めましょう。

また、申告書と併せて提出しなければならない書類を別記事でまとめていますので、漏れのないよう揃えて提出しましょう。

【相続税申告に必要な書類とは?

 

 

4.相続税申告を自分で行なう場合のメリットとデメリット

相続税申告を自分で行なう手順をご紹介しましたが、自力申告のメリットとデメリットを比較してみましょう。

 

相続税申告を自分で行なうメリット

自力で申告する最大のメリットは、税理士等に依頼する費用がかからないことです。多くの税理士は、相続財産額やその内容が複雑であるか等に応じて報酬を設定します。この報酬の支払いと相続税の納付はほぼ同時期に行なう場合が多いので、ある程度まとまった出費が予想されます。申告に必要なものや手順がわかっていれば、そうした金銭面での負担を軽くすることができます。

 

相続税申告を自分で行なうデメリット

自力での申告で懸念されるのは、やはりミスや漏れ、そして申告期限に間に合わないことです。

適用できる特例等を見逃してしまったり、計算ミスをしてしまうと、節税を逃すだけでなく、過大・過小申告につながってしまいます。また慣れない財産整理には思いのほか時間がかかり、結果、申告期限を過ぎてしまうとペナルティが課される可能性があります。

 

 

 5. 相続税申告は税理士に相談するのが安心

自分で申告する手順を追っていくなかで、「相続財産の把握が大変そう」「時間がないかも」という方もおられるのではないでしょうか。その場合は、費用がかかっても税理士を活用することを視野に入れてみましょう。

 

税理士に依頼するメリット

税理士に依頼するメリットには、次のようなものが挙げられます。

  • 節税対策ができる
  • 相続財産の把握に漏れや間違いがないか相談できる
  • 不慣れな申告作業を代行してもらえる
  • 正確な税額計算ができるため、税務調査の不安を大きく減らせる
  • 申告や納税までのスケジュール管理をリードしてもらえる

相続に強い専門の税理士に任せることで、安心して相続税申告を完了させることができます。

また相続に強い税理士に依頼することで、確かな知識のもと、複雑な不動産評価等でも適切な価額を算出できます。これは節税にもつながりますので、メリットは大きいといえるでしょう。

 

税理士に依頼するデメリット

税理士に依頼するデメリットには、次のようなものが挙げられます。

  • 税額0円であっても、税理士報酬はかかる
  • 遺産総額に比例して報酬額が上がる傾向にある

繰り返しになりますが、相続税納税と同時期に税理士への報酬を支払うケースが多いため、ある程度の資金が必要です。

 

 

 6. まとめ

この記事でご紹介した手順を追って申告してみようという方は、当HPに掲載している他の相続税記事もぜひ参考にしてみてください。必要な書類等を確認していただけます。

相続についての不安が残る方は、一度身近な税理士にご相談されることをおすすめします。

 

※この記事は、令和4年10月4日現在の法令に基づいています。

  •  
    相続税申告書への押印が不要に!押印が必要な書類もある?
  • 【生前贈与】いくらまでが非課税?贈与に関する最新情報まとめ