
税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香
大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。
親から子へ財産を譲るときや、知人に金銭を渡すときなど、「贈与」という形で財産を無償で渡す場面は意外と多いものです。しかし、ただ口約束で済ませてしまうと、後々「そんなつもりじゃなかった」とトラブルになる可能性も。そんなときに役立つのが「贈与契約書」です。この記事では、贈与契約書を作成するメリットや書き方、気を付けたいポイントをわかりやすく解説します。これから贈与を考えている方や、トラブルを未然に防ぎたい方はぜひ参考にしてください。
目次
「贈与契約書」とは財産を贈与する際に作成する契約書のことです。実は、口頭でも贈与者(贈与する人)と受贈者(受け取る人)の双方の合意があれば契約は成立しますが、口約束ではなく、書面にすることで様々なメリットがあります。以下で詳しく解説していきます。
口頭による契約は、履行前であれば当事者一方の意思で撤回が可能です。契約書を作成することによって、「双方の合意の契約である」という証明となり、一方的な取消ができなくなります。たとえば、「100万円をあげる」という約束をしていたけれど、贈与者の気が変わってしまったという場合、贈与契約書を作成していれば、受贈者は贈与を行うように請求可能です。また、贈与する対象や時期、条件を明確にしておくことで誤解やトラブル防止にもつながります。
贈与契約書を作成することで、贈与の事実を第三者に明確に示す証拠となります。贈与者が亡くなった後に相続税の税務調査が行われた場合、贈与契約書が作成されていなければ、税務署は不明な出金を贈与とみなさず、相続財産として課税する可能性があります。実際に贈与が行われていたとしても、契約書がなければそれを証明することが難しく、相続税に加え、追徴課税や延滞税などのペナルティが発生する恐れもあります。贈与契約書を事前に作成しておくことで、こうしたリスクを避け、税務署に対して贈与の事実を客観的に示すことができるのです。
また相続の際のトラブル回避にもつながります。贈与契約書を作成しておくことで、「いつ、どのような財産を、いくら贈与したのか」が明確になり、贈与が相続前に行われたことを客観的に証明できるため、相続人の間の争いを未然に防ぐことができます。特に遺言書がない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行って財産の分け方を決める必要があります。贈与契約書があれば、生前にどの程度の贈与があったのかを明確に示すことができ、公平な遺産分割のための重要な判断材料となります。
不動産を贈与する場合、その不動産の「所有権移転登記(名義変更)」が必要です。このとき、登記名義人を変更する正当な理由を証明する書類として贈与契約書が使われます。契約書を作成しておくことで所有権移転登記の手続きがスムーズになります。
次に契約書の書き方ですが、贈与契約書には様式や書式に決まりはありません。インターネット上には贈与契約書のひな型が多数存在しますので、それらを参考にするのも良いでしょう。パソコンで作成しても手書きで作成しても問題はありませんが、日付や贈与者・受贈者の署名については自筆で記入することが望ましいとされています。自筆による署名があることで、「本人が契約内容を理解し、納得して締結した」という証拠となりやすいからです。
まずは贈与者と受贈者の間で、贈与する財産の種類(現金・不動産・株式など)、その価額、贈与の方法について確認します。贈与の内容が固まったら、契約日や贈与実行日も含めて双方で合意し、その内容に基づいて贈与契約書を2通作成し、署名・押印を行います。このとき、2通の契約書が対になっていることを示すために割印を押すのが一般的です。契約書は各自で保管し、紛失が不安な場合は公正証書にしておくと安心です。
贈与契約書に記載すべき内容として一般的なものは以下の通りです。
・贈与の日時…契約締結日と贈与を行う日
・贈与者と受贈者それぞれの氏名、住所
・贈与の対象となる財産…財産の種類や数量、不動産の場合は所在地やその詳細
・贈与方法…どのように贈与するか(現金手渡し、振込等)
・贈与者、受贈者の署名・押印
押印は認印でもかまいませんが、実印を使用することで証拠としての価値も高まります。
不動産の贈与契約書を作成する際、必ず200円の印紙を貼付し、消印を行うことを忘れないようにしましょう。現金や株式の場合、収入印紙は不要です。またや不動産の所在や面積等の数字は正確に細かな単位まで記載しましょう。
生前贈与を行う際、「名義預金」に注意しましょう。名義預金とは、預金口座の名義人と口座を実質的に管理している人が異なる預金のことです。例えば、親が子ども名義の口座にお金を振り込んでいるが、実際の管理は親が行っているケースです。このような場合、形式上は子どもの名義であっても、税務署からは「名義預金」と判断され、相続時には親の財産として課税対象になる可能性があります。名義預金とみなされないためには、通帳や印鑑は本人が管理し、実際に使える状態にしておくことが大切です。また贈与の証拠として、贈与契約書の作成に加え、銀行振込など客観的な記録を残すようにしましょう。
未成年者が贈与を受ける場合には、親権者などの法定代理人の同意を得ることが推奨されます。たとえ本人が意思表示できる年齢であっても、親権者の署名・押印を併せて行うとよいでしょう。なお、受贈者が幼くて贈与契約書への署名が困難な場合には、親権者が代筆する形でも問題ありません。
年間110万円以下の贈与については、原則として贈与税は課税されませんし申告も不要です。このため、「贈与契約書を作成しなくても問題ない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、たとえ110万円以下の贈与であっても、贈与契約書は作成しておくべきです。というのも将来的に税務署から「本当に贈与だったのか?」と疑念を持たれた場合に、贈与契約書が証拠として有効になります。このようなリスクを避けるためにも、金額の大小にかかわらず、贈与契約書を作成しておくと安心です。
過去の贈与に関して、過去の日付に遡って贈与契約書を作ることはできません。このような後付けの契約書が税務署の調査で発覚すれば、「証拠の偽造」とみなされ、重加算税の対象になる恐れがあります。過去に贈与した事実を記録として残す場合、贈与契約書ではなく、内容を記載した覚書や確認書の形で書面として残すことが有効です。特に心配な場合は、税理士など専門家に相談しながら進めると安心です。
贈与契約書は法律上、必ずしも必要ではありませんが、将来のトラブルや誤解を避けるための重要な予防策です。内容によっては、税務上の取扱いや将来の相続に影響を及ぼすこともあります。税理士法人プラスカフェでは、贈与税・相続税の両面からお客様の状況に合わせた最適なアドバイスをご提供いたします。安心して手続きを進めるためにも、ぜひお気軽にご相談ください。
※この記事は令和7年10月23日現在の法令に基づいています。