税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香
大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。
ご家族が亡くなられた後、相続の手続きと並行して必要になるのが「準確定申告」という手続きです。これは亡くなられた方に代わり、その年の所得税を申告・納税するものです。通常の「確定申告」とは少し異なり、申告の期限や提出する人が決まっているなど、注意すべき点がいくつかあります。この記事では、「準確定申告って何をするの?」「誰がやるべき?」「いつまでにすればいいの?」といった疑問を持つ方のために、準確定申告の基本や手続き、注意点を分かりやすく解説します。
目次
準確定申告とは、亡くなった人の生前の所得に対して行う確定申告のことです。その年の1月1日から死亡した日までの所得について、相続人が「準確定申告」として申告・納税しなければなりません。確定申告と同じく、申告期限や納付期限があり、申告には確定申告書と添付書類が必要です。生前の所得に基づいて、税額が納付もしくは還付される仕組みです。ただし、通常の確定申告と異なり、準確定申告には以下のようなルールがあります。
通常の確定申告の場合、翌年2/16~3/15に申告を行います。一方、準確定申告の場合は相続開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内です。また申告先ですが、申告を行う人ではなく、亡くなった人の住所を管轄する税務署が申告先となります。
準確定申告は、原則として相続人全員の連名で申告書を提出します。代表者がまとめて申告を行うケースも多いですが、その際も他の相続人の同意が必要です。納税が必要な場合は、法定相続割合に応じて納付します。尚、相続を放棄した人は準確定申告の義務もありません。
確定申告と準確定申告の違いを以下の表にまとめました。
確定申告 | 準確定申告 | |
申告する人 | 本人 | 相続人全員 |
対象となる所得 | 1/1~12/31 | その年の1/1~亡くなった日まで |
申告期限 | 翌年の2/16~3/15 | 相続開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内 |
申告先 | 本人の住所地を管轄する税務署 | 被相続人の住所を管轄する税務署 |
納税義務 | 本人 | 相続人(相続割合に応じる) |
「準確定申告」は全ての人に必要なものではありません。「必要なケース」と「不要なケース」、また「必要ではないが申告をした方が良いケース」があり、以下で解説していきます。
被相続人が生前に確定申告をしていた場合は準確定申告が必要な可能性が高いです。具体的には以下のような場合、準確定申告が必要となります。
被相続人が給与所得者の場合で、その給与が2000万円以下であれば、勤務先が年末調整を行ってくれるため、基本的に準確定申告は不要です。また、副収入が20万円以下であった場合や、公的年金の受給額が400万円以下の場合も不要となります。
準確定申告が不要なケースであっても、申告を行うことにより還付金が返ってくる可能性があります。例えば、年末調整が行われていない場合や医療費控除、寄附金控除を受ける場合です。この場合の申告は「義務」ではなく「権利」ですので、申告しなくても罰則はありませんが、還付金が見込まれる場合は申告するのがおすすめです。
被相続人が年の途中で亡くなった場合でも、会社は通常、年末調整を行います。しかし、年末調整が行われなかった場合、本来適用されるはずの各種控除が反映されず、その結果、本来よりも多くの所得税が差し引かれたままになる可能性があります。
被相続人が亡くなった年に高額な医療費がかかっている場合、医療費控除の対象となり、準確定申告をすることで税金が還付される可能性があります。ただし、亡くなられた後に相続人が支払った医療費に関しては、準確定申告での医療費控除対象外となりますのでご注意ください。また被相続人が一定の寄附金を支払っていた場合は寄附金控除を受けることができます。
次に準確定申告の手続きの流れや必要書類について確認していきます。準確定申告は「相続人等の全員が連名で行う」のが原則です。相続人が複数いる場合、申告書を一つにまとめ、相続人が連名で申告することになっています。そのとき、税務署等のやり取りや手続きをスムーズに進めるためにも代表者を決めておくとよいでしょう。
また、相続人が個々に申告することもできます。その場合、他の相続人等に申告した内容を通知しなければなりません。
準確定申告の流れとしては、必要書類の収集→申告書の作成→提出となります。まず被相続人の所得や控除について確認し、必要書類をそろえます。その上で、相続人全員の連名で申告書を作成し、税務署へ提出することになります。
準確定申告に必要な書類は以下の通りです。
なお、還付金があり、代表相続人がまとめて受け取る場合は「還付金の受領に関する委任状」も必要です。準確定申告は、相続開始から4ヵ月以内に提出する必要があるため、書類の準備は余裕を持ったスケジュールで進めましょう。一方、還付申告は5年以内であれば申告が可能です。
準確定申告は、期限が4ヵ月以内と短く、申告期限を過ぎると延滞税や加算税が発生する可能性があります。また、医療費控除や住宅ローン控除、寄附金控除などの各種控除を申告し忘れると、本来受け取れるはずの還付金が減少してしまうかもしれません。提出書類に不備がある場合には申告が受理されず、再提出や修正が必要になることもあります。準確定申告は手続きが複雑であり、税務上の不利益を避けるためにも、専門家に相談するのもおすすめです。
準確定申告書は4カ月以内に作成・提出する必要がありますが、実は納付期限も申告期限と同じ日です。したがって、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から4カ月以内に申告から納付まで済ませる必要があります。もし期限に間に合わない場合、ペナルティが課せられてしまう可能性があるので、注意しましょう。
準確定申告で受け取った還付金は相続税の課税対象です。本来、被相続人が生きていれば受け取ることができたお金であるため、被相続人の財産として相続税の課税対象となるのです。ただし、還付加算金については被相続人の財産としてではなく、相続人の所得となります。
また、被相続人が亡くなった後に支給された給与については、源泉徴収票の支払金額に含まないため、相続税の課税対象となります。
大切なご家族を亡くされた中で、税務手続きに追われるのは精神的にも大変なことかと思います。しかし、準確定申告は期限が定められており、放置するとペナルティが発生する可能性もあります。税理士法人プラスカフェでは、準確定申告から相続税申告まで、丁寧にサポートいたします。ご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。
※この記事は令和7年9月25日現在の法令に基づいています。