相続税の債務・葬式費用の控除とは?税理士がわかりやすく解説

この記事の監修

税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香

大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。

相続税の計算では、相続した財産の金額だけでなく、被相続人(亡くなった方)が生前に抱えていた債務や葬式にかかった費用を差し引くことができることをご存知でしょうか。しかし、どこまでが控除の対象なのか、判断に迷うことも少なくありません。この記事では、相続税における債務控除・葬式費用の控除についてわかりやすく解説します。相続税の負担を正しく軽減するためにも、ぜひ参考にしてください。

 

相続税における債務控除とは?

相続税の債務控除とは、被相続人が亡くなった時にあった借入金や未払金などの債務、相続人が負担した葬式費用を相続財産から差し引くことのできる制度です。相続税は「プラスの財産-マイナスの財産」で課税額を計算するため、債務控除を使うことで課税対象となる財産額を減らし、結果として相続税を軽減できます。差し引くことができるのは、被相続人が亡くなった時にあった債務で確実と認められるものと葬式費用です。債務控除の「対象になる」ものと「対象にならない」ものについて、以下で解説していきます。

 

控除の対象となる債務

債務控除の対象となるのは、被相続人が亡くなったときに存在した債務(借入金や未払金など)で確実と認められるものです。具体的な例としては以下のとおりです。

 

  • 金融機関からの借入金
  • 個人からの借金

…親族や友人知人からの借入の場合、それを証明できれば債務控除の対象となります。税務署は契約書や返済実績、銀行の入出金をしっかり確認するため、口約束だけの借入では実在性が疑われ認められない可能性が高いです。

  • 未払金(医療費や介護費用、公共料金等その他相続時点で未払いだったもの)
  • 準確定申告で算出された所得税や消費税
  • 住民税、固定資産税などの未納付の公租公課
  • 事業所得がある場合、買掛金等の未払金や未払給与、不動産預り敷金

 

対象とならないもの

一方で対象とならない債務もあります。

  • 団体信用生命保険付き住宅ローン

…団体信用生命保険が付いている住宅ローンの場合、契約者が亡くなった時点で残っているローンは、保険会社から支払われる保険金で完済されるため控除の対象外です。

  • 相続税の課税対象とならない非課税財産に対する未払金

…お墓や仏壇といった非課税財産は、購入費用の未払金が残っていたとしても債務控除の対象外となるため注意が必要です。

  • 被相続人の死亡後に発生した費用

…相続手続きに関する弁護士や税理士等の依頼報酬、相続財産の管理費用といったものは、相続人自身が負担すべき費用とされているため、債務控除の対象とはなりません。

その他、債務は存在するが金額が未確定であったり、裁判係争中である債務についても確実とは認められないため債務控除の対象外です。

 

葬式費用の控除とは?

葬式費用は被相続人の債務ではありませんが、相続に伴い必ず発生する支出であり、相続と切り離せない性質を持っています。そのため、葬式費用については、債務控除と同様に、費用を負担した相続人の相続財産から控除することが認められています。ただし、控除の対象となる費用には一定の基準があり、すべての費用が認められるわけではありません。どの費用が控除できるのか、また控除の対象外となるのかを正しく理解しておくことが大切です。

 

控除できる主な費用

葬式費用の控除の対象となる一般的な支出としては、まず葬儀そのものにかかる費用とその付随費用です。具体的には、葬儀会社への支払いのほか、通夜や告別式に要する費用、祭壇・供花・供物代、霊柩車などの搬送費、火葬料などが該当し、通夜ぶるまいなど葬儀の場で提供される飲食費も対象となります。また、宗教者に支払うお布施や戒名料、お車代などの謝礼も控除の対象です。その他、遺体の安置にかかる費用や死亡届の手続きを代行してもらう際の費用なども含まれます。

 

控除できない費用

葬式費用の中には、控除対象とならないものもあります。まず、香典返しなどの「返礼品の費用」は、葬儀に付随するものであっても控除の対象外とされています。また、法要(初七日、四十九日、一周忌など)にかかる費用も、葬儀後の宗教的な儀式であるため控除できません。さらに、墓地や墓石の購入費、納骨堂の使用料といった「お墓に関する費用」も対象外です。そのほか、遺体の解剖費用など特別な費用も控除対象外となります。

 

互助会費に注意!

葬式費用の控除の中で、「互助会費」については注意が必要です。一般に、葬儀会社や生活協同組合などが提供する互助会に加入すると、毎月一定額の会費を積み立てることで、将来の葬式費用に充当することができます。この互助会の契約者が亡くなった本人であった場合と相続人であった場合について扱いが異なります。

 

被相続人が積立していた場合

契約者が被相続人だった場合、その積立金部分は控除されません。互助会の積立金を充当した後に支払った金額が控除の対象となります。例えば、葬式費用が総額100万円で互助会への積立金が20万円だった場合、80万円分が全体の相続財産から控除されることになります。

 

相続人が積立していた場合

一方、契約者が相続人だった場合は、全額が控除の対象となります。上記の例の場合では、葬式費用の総額100万円が控除されます。

 

参考:国税庁のHP  No.4129 相続財産から控除できる葬式費用|国税庁

 

控除を受ける際の注意点

相続税の計算において債務控除を適用する場合には、いくつか注意点があります。まず、遺産総額が基礎控除額以下で相続税がかからない方については、そもそも債務控除の必要はありません。また、債務控除を行った結果、相続財産の総額が基礎控除額以下になる場合、相続税の申告は不要です。一方で、債務控除を適用しても相続財産が基礎控除額を超える場合には、相続税の申告と納税が必要となる点に注意しましょう。債務控除を受けることが出来ない人や控除を受ける際に必要な書類について以下で解説いたします。

 

債務控除を受けられない人

相続税の債務控除を受けることができないのは、相続放棄をした人・特定受遺者・制限納税義務者です。まず、相続放棄をした場合には、相続人としての地位を失い、財産も債務も一切引き継がないため、相続税の申告義務自体がなく、当然ながら債務控除も適用されません。

また、遺言により特定の財産のみを受け取る特定受遺者についても、取得するのは指定された財産だけであり、被相続人の債務を承継する立場にはないため、債務控除の対象には含まれません。さらに、相続税法では債務控除が認められるのは「課税対象となる財産に対応する債務」に限られています。このため、相続人が制限納税義務者に該当する場合、課税対象が国内財産に限定されることから、国外財産に関連する債務については控除を受けることができません。

 

証拠書類の保管

相続税の債務控除を適用する際、原則として債務があることを証明できる書類が必要となります。具体的には、金融機関の残高証明書や納税通知書、医療費や光熱費の領収書等です。お布施や心付けといった領収書が発行されない費用に関しては、ご自身で作成したメモでも構いません。その場合は、支払年月日や支払先の名称、所在地、連絡先、金額、内容を記録しておくと良いでしょう。

 

まとめ

債務控除の対象となる債務や葬式費用があるにもかかわらず、それらを遺産総額から差し引き忘れてしまうと、相続税を余分に支払うことになってしまいます。反対に、債務控除の対象外のものまで控除してしまうと、後からペナルティの対象となる可能性もあります。正確な相続税申告と適切な納税のためにも、専門家に相談することが大切です。税理士法人プラスカフェでは、相続税申告の代行はもちろん、適用できる控除の確認や、節税につながるご提案まで幅広くサポートしています。初回は無料でご相談いただけますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

 

※この記事は、令和7年11月25日現在の法令に基づいています。

 

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