税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香
大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。
相続税にも時効があることをご存知でしょうか。実は相続税にも時効(除斥期間)があり、一定期間が過ぎると国が相続税を徴収する権利を失います。つまり時効が成立すると、相続税を申告・納税する義務はなくなります。「時効まで待てば相続税を支払わなくてすむかも…」と考える人もいるかもしれません。しかし、実際には時効が成立したケースはほぼなく、多くの場合はペナルティを課せられることになります。今回は、この相続税の時効についてわかりやすく解説します。
目次
まず「相続税の時効がいつから(起算日)始まり、いつまで(期間)に成立するのか」ですが、時効の起算日は法定申告期限の翌日と定められています。法定申告期限とは、相続開始日(被相続人が亡くなった日)から10カ月以内ですので、10カ月後が起算日となります。次に期間ですが、相続税の時効は原則5年です。しかし、相続税の支払いを故意に逃れようとする場合は7年となります。この「5年」か「7年」かの違いについて以下で解説していきます。
相続税の時効は原則として5年です。これは相続人が善意とされる場合です。この判断基準は「知っていたかどうか」です。つまり、相続人が相続税の申告・支払い義務があることを全く知らなかった場合、善意の相続人と判断され、時効は5年となります。例えば、被相続人と長年疎遠であり、死亡したことを知らなかった場合は善意とみなされます。
一方、相続税の支払い義務を認識していた場合、「悪意がある」とみなされ時効は7年に延長されます。この悪意がある場合とは「偽りその他不正の行為」があった場合、つまり故意に相続税の申告・納税をしなかった場合です。この場合「悪意の相続人」と判断され、時効は7年となります。
時効が7年となるケースとしては以下のような行為が該当します。
例として、被相続人のタンス預金を知っていたが財産として申告していなかった、遺産分割で揉めて申告期限を過ぎていた、等があります。つまり故意に財産を隠したり、偽の情報を提出した場合に不正と判断され、時効は7年に延長されます。
上記のように、相続税の時効は5年または7年です。だからといって、「税務署から指摘があるまで時効を待っていても大丈夫」というわけではありません。実際に相続税の時効が成立するケースはほぼありません。なぜなら、時効成立までに税務調査が行われ、税務署から指摘を受ける可能性が高いからです。指摘を受けた場合にはペナルティが課せられます。そのため、時効を待つことは非常にリスクが高いといえます。時効成立が難しい理由は以下で解説していきます。
税務署は、様々な情報を持っています。その中で死亡情報と過去の納税情報により相続税が発生しそうなケースを把握しています。そして相続税の申告が必要になりそうな人を事前に把握し、案内を送っています。また税務署は強い調査権限を持っているため、被相続人や相続人の財産状況・預金口座などを詳細に調査することができます。もし申告内容に不備がある、あるいは無申告である場合には、税務調査が行われます。この調査では相続人への聞き取りや銀行の口座確認に加え、必要に応じて取引先や銀行貸金庫への「反面調査」も実施されます。
実は遺族が市町村役場に死亡届を提出すると、その情報は税務署にも通知される仕組みになっています。つまり、税務署は「誰が・いつ亡くなったか」きっちり把握しているのです。またその被相続人の財産に関しても、銀行口座の凍結や保険金の請求、不動産の名義変更などといった動きを税務署は把握しています。そのため「税務署に伝えていないから大丈夫」ではなく、相続税の申告義務がある場合は、適切に対応することが大切です。
税務署は、「KSKシステム」と呼ばれる国税総合管理システムを持っています。これは、全国の国税局と税務署をつなぐネットワークで、これにより納税者の過去の申告や納税情報を一元的に管理しています。このシステムを活用することで、相続税の発生しそうなケースをあらかじめ把握し、被相続人の収入や資産に対して申告額が少ない、または申告していないといったケースを発見しやすくなっています。
相続税の申告・納付を期限内に適正に行わなかった場合、ペナルティが課せられ「相続税+ペナルティ」を支払うことになります。このペナルティには、無申告加算税、過少申告加算税、延滞税、重加算税の4種類があり、以下で詳しく解説していきます。
無申告加算税とは、正当な理由がなく、申告期限内に申告しなかった場合に課せられるペナルティです。正当な理由とは、災害発生または交通や通信の途絶・期限後申告の特則に該当する事由のどちらかとなっています。申告漏れを指摘される前に、自主的に申告した場合にはこの無申告加算税は5%ですが、税務調査で発覚した場合はその金額や時期に応じて10~30%と高い税率が適用されます。
過少申告加算税とは、申告期限内に申告を済ませたものの、後から申告漏れしていた財産が発覚した場合に課せられるペナルティです。ただし、この過少申告加算税は、税務調査の事前通知を受ける前に自主的に修正申告した場合には課税されません。税務署の指摘を受けて修正申告した場合、その時期や金額に応じて5~15%の税率で課税されます。
延滞税は、納付が遅れた日数に対して課されるペナルティです。そのため、納付期限を1日でも過ぎると加算されます。延滞税の額は、法定納期限の翌日から完納する日までの日数に応じて計算されます。延滞税の税率や計算方法については、国税庁HP「延滞税の計算方法」をご確認ください。
重加算税とは、相続税の申告を故意に行わなかったり、偽ったりした場合に課せられるペナルティです。申告はしたものの、その内容に隠ぺいや偽りがあった場合は、追加で納める税額の35%が課税されます。また申告していなかった場合には税率は40%となります。あまりにも悪質な場合には刑事罰を課せられる可能性もあります。
相続税には時効がありますが、実は贈与税にも時効があり、こちらは原則6年です。しかし相続時精算課税制度を適用した場合は、贈与税が時効でも相続税の課税対象になります。つまり贈与から何年経っていても相続発生時に課税対象財産となります。
今回は相続税の時効やペナルティについてご紹介しました。相続税の申告・納付を適正に行わないことでペナルティが課され、負担が大きくなってしまいます。こうした事態を避けるためにも、相続税の申告手続きは、専門の税理士にご相談されることをおすすめします。税理士法人プラスカフェでは、相続に強い税理士が親身に分かりやすくご相談に対応いたします。初回無料相談も行っております。ぜひお気軽にお問い合わせください。
(※この記事は、令和7年7月24日現在の法令に基づいています。)