預金相続の流れがわかる!必要書類や注意点を税理士が解説

この記事の監修

税理士法人プラスカフェ代表/税理士・行政書士・CFP(日本FP協会認定)
今井 沙矢香

大学卒業後、大阪の税理士法人にて勤務の後に出産を機に退社。育休から復帰後は税理士法プラスカフェの設立に携わる。「若手・女性」の税理士は、税理士業界では少数派であるが、そこをプラスに変えて、お客様へ寄り添い適確なアドバイスをすることをモットーにしている。自らが代表を務める京都の事務所では、得意とする相続税申告、またその関連業務を中心に行っている。

口座名義人が亡くなったら、相続人が金融機関に連絡をしたり、預金払戻しの手続きをしなければなりません。しかし、それらの手続きの順番や準備まではよくわからない、という方が多いのではないでしょうか?

この記事では、預金相続に必要な書類や、手続きの際の注意点をわかりやすく解説していきます。

 

 

相続が発生したら、故人の預金口座はどうなる?

預金口座は相続財産のひとつですので、相続人が決まり手続きが完了するまでは、金融機関はその口座を「凍結」して預金の払戻しができない状態にします。

 

金融機関が相続発生の事実を知ると凍結される

遺族からの連絡等により、金融機関が死亡の事実を知ると、入出金の停止=口座凍結がなされます。金融機関からすると、(遺産分割協議書や遺言の内容の確認が出来ていなければ)正当な相続人がわからない状態となるからです。口座はいったん、相続人全員の共有財産とされます。

口座が凍結された後は、その口座から引き落とされていた水道光熱費やカードの支払い、ローンの返済等に関しても、引き落とし口座の変更手続きが必要です。

 

凍結前の預金引き出しには注意が必要

上記の説明からわかるように、口座名義人が亡くなっても、金融機関が相続発生の事実を知るまで口座は凍結されずそのままです。遺族内で話し合った結果、各種支払い等の対応を続けるためにしばらく凍結しない、という方法もあります。しかし、金融機関への連絡をいつまでも怠ったり、口座を放置したりすることは絶対に避けましょう。次のようなリスクがあるからです。

 

リスク①他の相続人とトラブルになる恐れがある

例えば故人(被相続人)の配偶者がキャッシュカードの暗証番号を知っていて、口座凍結・遺産分割協議前に預金を引き出したとしましょう。他の相続人に、「相続人全員の共有財産である状態なのに、勝手に使うなんて横領だ」と主張される可能性があります。

こうしたトラブルを避けるためにも、医療費や葬儀費用支払いのために預金の引き出しを行なう場合は、相続人全員にあらかじめ連絡し了承を得ておきましょう。また、内容がわかるように領収書は保存しておきます。

 

リスク②相続の放棄・限定承認ができなくなる恐れがある

預金等のプラスの財産だけでなく、負債等のマイナスの財産も見つかった場合、「相続の放棄」や「限定承認」という選択肢も出てきます。

  • 相続の放棄・・・被相続人のプラスの財産(権利)やマイナスの財産(義務)の一切を受け継がないこと
  • 限定承認・・・相続したプラスの財産を限度として、被相続人のマイナスの財産を受け継ぐこと

しかし遺産分割協議前に預金の引き出しを行なってしまうと、この相続の放棄が認められなくなる可能性があります。相続財産を故意に処分(消費)したと判断されれば、いったん認められていた相続の放棄や限定承認も無効となります。

 

 

亡くなった人の口座が、どの銀行にいくつあるのかわからないときは?

相続が発生したら、被相続人がどの金融機関にいくつ口座を持っているかを知る必要があります。通帳をひとまとめにしてあればわかりやすいのですが、そうでない場合は相続人で調べる必要があります。

 

被相続人の遺品・郵便物を確認する

まずは遺品や、被相続人宛ての郵便物を見てみましょう。

金融機関からのお知らせや、各種支払明細に記載されている振替口座、信用金庫の出資証券などを確認し、問い合わせましょう。

 

メールやPC、スマホのブックマークや通帳アプリ等を調べる

近年ではネット銀行で口座開設し、紙の通帳を持たない人も少なくありません。被相続人のメールやスマートフォンで、ネット銀行のブックマークや通帳アプリがないか確認してみましょう。

 

故人の勤務先等に聞き取りをする

被相続人が過去に勤めていた会社があれば、当時の給与振込先を聞いてみる方法もあります。長期間取引のない口座は休眠口座となり後に消滅しますが、そうでない限り解約していなければ口座はいきています。

残高の多さに関わらず相続財産となりますので、可能性がある先は確認しましょう。

 

 

預金相続手続きの流れ

預金を相続する=被相続人の口座から相続人の口座へ払戻しがなされるためには、主に次の3つのステップで対応します。金融機関によって必要書類等が異なる場合もありますので、個別に確認するのがよいでしょう。

 

Step1:金融機関に相続発生の連絡&残高証明書の依頼

該当する金融機関全てに、口座名義人が亡くなった事実を伝えます。申し出た口座については、普通・定期など口座の種類に関係なく凍結されます。

同時に、口座の「残高証明書」の発行を依頼しましょう。これは、口座名義人が亡くなった日の口座残高が記載されたものです。遺産分割協議の参考になるだけでなく、相続税の計算にも必要となりますので、この段階で請求しておきましょう。

残高証明書の請求に必要な書類

残高証明書の請求には、主に次の4点が必要です。必ず原本を用意します(多くの場合、金融機関がコピーをとり、原本は返してもらえるようです)。

  1. 通帳
  2. 死亡の記載のある、被相続人の戸籍謄本
  3. 請求者が法定相続人であるとわかる戸籍謄本
  4. 請求者の実印と印鑑証明書

 

Step2:必要書類の準備

預金の払戻しに必要な書類は、遺言の有無や遺産分割協議の進捗状況、手続きの内容により異なります。各ケースでの必要書類については、次の章で詳しくご紹介いたしますが、どのケースでも共通して必要なのは、次の2点です。

  1. 相続手続き依頼書(金融機関に請求する)
  2. 通帳・キャッシュカード

相続手続き依頼書は、金融機関によって様々な名称・書式で用意されています。それぞれ確認して請求しましょう。

 

Step3:必要書類の提出、払戻しへ

各ケースで必要となる書類を揃えたら、相続手続き依頼書に相続人全員の署名と実印での押印をして、必要事項を記載し、金融機関に提出します。

提出後、1~2週間程度で相続人の口座へ払戻金が入金されます。払戻し方法としては、

  • 代表相続人に払戻しが行なわれ、その後代表者が他の相続人へ分割する場合
  • 依頼書内容に沿い、払戻しの時点で各相続人へ分割される場合

の2つがあります。金融機関によって異なりますので、あらかじめ確認しておきましょう。

 

 

預金の相続手続きの必要書類

前章step2より、各ケースでの必要書類を詳しくご紹介いたします。

1.遺言書がある場合

  • 遺言書
  • 家庭裁判所の検認調書または検認済証明書(検認が必要な遺言書の場合)
  • 被相続人の戸籍謄本(死亡が確認できるもの)
  • 預金の相続人(受遺者)の印鑑証明書
  • 遺言執行者の印鑑証明書(遺言執行者がいる場合)
  • 遺言執行者の選任審判書(遺言執行者が家庭裁判所で選任された場合)

 

2.遺言書がない場合

遺言書がない場合の必要書類は、遺産分割協議書の有無によって異なります。

遺言書がなく相続人が複数いる場合には、遺産分割協議により各人の相続財産・割合を決めます。その記録として、また実際に財産を受け取る際の有効な書類として遺産分割協議書を作成します。

 

2-1.遺産分割協議書がある場合

遺言書がなく、遺産分割協議書がある場合の必要書類は、以下の通りです。

  • 遺産分割協議書(相続人全員の署名、実印での押印があるもの)
  • 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(出生から死亡まで連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本、および印鑑証明書

2-2.遺産分割協議書がない場合

遺言書がなく、遺産分割協議書もない場合の必要書類は、以下の通りです。

  • 被相続人の除籍謄本、戸籍謄本(出生から死亡まで連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本、および印鑑証明書

 

3.家庭裁判所の調停調書または審判書がある場合

遺産分割協議がまとまらず、家庭裁判所の調停・審判で遺産分割が決定した場合の必要書類は、次の通りです。

  • 家庭裁判所の調停調書謄本または審判書謄本
  • 預金の相続人の印鑑証明書

 

 

預金を相続する場合の注意点

預金は、相続財産のなかでも価額のわかりやすいプラスの財産です。しかし、遺産分割が決まる前に通帳の中身を遡って確認されることをおすすめします。その理由を解説します。

 

名義預金の扱い

口座の名義人と、実際に口座を管理運用してきた人が異なる場合、その口座を「名義預金」といいます。

例えば、孫名義の口座に祖父が預け入れを続けていたケースです。この祖父が亡くなった場合、孫名義の口座ではありますが祖父の財産とみなされ相続税の対象となる可能性があります。

通帳の名義人だけを見て、被相続人の財産でないと判断して見落としがちな相続財産です。取引明細や生前の通帳の扱いを遡ってみましょう。

 

相続開始前の3~7年以内に行われた贈与

もうひとつ注意したいのが「生前贈与加算」です。

被相続人が亡くなる前の一定期間に、相続人が被相続人から暦年贈与(通常の贈与)を受けていた場合、相続税計算に用いる財産にこの贈与財産を加算するというものです。贈与税を納めていたのであれば、相続税計算の際にその贈与税は控除されます。

 

【加算対象期間】

被相続人の相続開始日 加算対象期間
~令和8年12月31日 相続開始前3年以内
令和9年1月1日~令和12年12月31日 令和6年1月1日~死亡の日までの間
令和13年1月1日~ 相続開始前7年以内

 

相続財産を減らすための親族等への贈与は、相続税対策としてよく行なわれることです。しかし、この対象期間内での贈与は相続財産に持ち戻されますので注意しましょう。

名義預金と生前贈与の関わりにも注意

例えば孫の名義預金に、祖父(被相続人)が自身の口座から毎年100万円入金を行なっていた場合、たとえそれが「孫への贈与」との意図であっても、贈与と立証できなければ、被相続人の口座から口座へお金が移動しただけ、とみなされる恐れがあります。

生前贈与は年間110万円までなら非課税です。孫は贈与税をおさめなくて済むし、相続財産は減るから相続税も少なくて済む、と思っていたら、名義預金とみなされ節税もできていない事態が起こり得ます。

相続人となる子や孫へ贈与をする際は、名義預金であるか否かを問わず、贈与成立の事実が重要となります。贈与契約書を作成するなど、生前の対策をおすすめします。

 

 

まとめ:口座凍結や相続手続きで慌てないために

冒頭で解説した口座凍結ですが、相続人が当面の生活費のためにお金が必要となった場合等に、相続預金の払戻しが受けられる制度があります。

遺産分割前の相続預金の払戻し制度

利用手段 単独で払戻しができる額
家庭裁判所の判断により払戻しができる制度 家庭裁判所が仮取得を認めた金額
家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度 相続開始時の預金額×1/3×払戻しを行なう相続人の法定相続分

 

必要書類や条件等の詳細は、全国銀行協会のこちらのパンフレットを参照ください。

 

相続専門の税理士がいます!

こうした制度やこの記事を活用して、自力で相続手続きをすすめることももちろん可能です。

しかし相続財産は預金だけではないことがほとんどです。全ての手続きには、想像以上の手間と時間がかかります。

税理士法人プラスカフェでは、相続専門の税理士が一部手続きの代行や必要書類のご案内、相続税申告まで一貫してサポートさせていただきます。

税理士にも得意分野がありますので、ぜひ相続に強い税理士の活用をご検討ください。

 

 

※この記事は、令和6年5月16日現在の法令に基づいています。

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